Site Search
Search within product
§被覆窒素肥料を利用した露地野菜の全量基肥施肥法
愛知県農業総合試験場・作物研究所
技師 池田 彰弘
(前 園芸研究所環境研究室)
§平成6年度農業観測の概要について
農林水産省大臣官房調査課
河本 幸子
愛知県農業総合試験場・作物研究所
技師 池田 彰弘
(前 園芸研究所環境研究室)
近年,農耕地から流出した肥料成分,特に窒素による地下水の硝酸汚染や河川の富栄養化が全国的に問題視されてきている。全国有数の露地野菜産地,渥美半島を有する愛知県でも,これらの問題がにわかにクローズアップされ,環境保全型農業の推進が重要課題となってきている。
露地野菜は窒素栄養が不足すると収量・品質が損われるため,必要以上の施肥が行われる傾向が強いが,利用されない窒素成分の多くは溶脱し,環境問題を引き起こす。
本県では,施肥量の20%削減を環境保全型農業の推進目標としているが,これに対応する1つの方策として被覆肥料の普及促進が考えられる。野菜の養分吸収に合致する溶出パターンを持つ被覆肥料の導入は利用効率を向上させ,施肥量削減,すなわち環境負荷低減に効果を発揮するとともに,追肥労力の削減を可能とする。したがって被覆肥料による全量基肥施肥法は,今後農業が向かうであろう大規模化にも対応できる施肥技術として期待されている。
これらの状況を踏まえ,園芸研究所では露地野菜を対象に被覆窒素肥料を利用した全量基肥施肥法の開発に取り組んでおり,本稿では比較的施肥量の多い秋冬ハクサイの試験例を紹介したい。
本県の秋冬ハクサイ(12~2月収穫)は全国有数の生産量を誇っている。窒素施肥量は作型や地域により異なるが,10a当たり30kgから45kgと吸収量(4000株で20kg/10a程度)以上が施肥されている。慣行の施肥体系では基肥に窒素15~20kg程度が施用され,11月下旬までに2~3回の追肥(同6~10kg/1回)が行われている。
それでは,被覆窒素肥料を導入する場合は,どのようなタイプがよいのであろうか。前提条件として,①結球性葉菜類は十分な外葉生育を確保することが収量面で重要なポイントであること,②全生育期間が栄養生長期であるため肥切れさせることなく,また収穫期(本試験では12月下旬)に施肥窒素を残存させないこと,③基肥施用時期から地温(気温)が低下すること,④追肥労力削減の観点から全量基肥施用することが挙げられる。
この条件を満たす肥料として,比較的短期間に窒素成分が溶出する被覆尿素(LP)肥料(LP30,LP40,LP50)が適すると考えられた。更にハクサイでは石灰欠乏症が問題となるため,被覆硝酸石灰40号(ロング硝カル40-商品名ロングショウカル40)の利用も併せ検討した。
なお,ほ場での窒素溶出パターンを確認するため,以下の方法により,溶出試験を行った。
各被覆肥料(窒素1g)を土壌に混和した後,不織布の袋に入れ,ほ場(深さ15cm)に埋設した。その後,経時的に掘り出し,LPはケルダール分解,ロング硝カルは蒸留水とともに磨砕し,定容した後,蒸留法により残存窒素量を測定した。
栽培試験は1992年から2か年間,園芸研究所内露地野菜畑(中粗粒灰色台地土:長久手統,CEC4.9me/100g)で行い,年内収穫を目標にした9月下旬定植のプラグ苗移植栽培(品種:聖徳)とした。試験区の構成は表1に示したとおりである。

なお,対照区は現地の慣行施肥量を参考にし,基肥は高度化成,追肥はNK化成を用いた。LP及びロング硝カル施肥区は全量基肥施用し,窒素の内30%はスターターとして速効性窒素(硫安,リン安により調整)を配合した。また,りん酸は重焼燐,加里は硫酸加里及びけい酸加里を用いて,成分調整を行った。
供試肥料からの窒素溶出パターンを図1に示した。

溶出速度は年次による差が認められるものの,地温低下にかかわらず,比較的スムーズに溶出が行われた。特にLP30は80%溶出に達する日数が40~60日と他に比べ早く,収穫時の残存率は10%程度にすぎなかった。LP40は最初の2か月間に66~80%が溶出し,収穫時での残存量は13~25%であった。LP50は収穫時でも80%溶出には達せず,30~40%が残存し,利用効率の低さが示唆された。一方,ロング硝カルは,55~70日程度で80%溶出となり,収穫時には8~14%程度の残存率となった。
以上の結果から判断すると,LP30は地温が高く推移する年では肥効の継続期間がやや短すぎる危険性があり,またLP50は地温が低く推移する年に肥効確保が困難となるとともに,収穫時により多く残存する可能性があると考えられた。したがって,秋冬ハクサイへ被覆窒素肥料を導入する場合,LP40及びロング硝カルが適当と思われる。
表2にLP40及びロング硝カル40を利用した全量基肥栽培試験の収量調査結果を示した。両年度とも被覆窒素施用区は対照区同様,順調に生育し,収穫期でも窒素欠乏症状は認められなかった

結球重は,ロング硝カル区>LP40区>対照区の順に重かった。更に両被覆肥料とも20%減肥しても対照区と同程度以上の肥大を示し,肥効の高さが示唆された。また,外葉重も結球重とほぼ同様の傾向が認められ,これらの肥料を利用すると追肥を省略しても十分な生育を確保でき,収量が低下しないことが明らかになった(写真)。

表3に無機成分含量を,また図2に1株当たりの無機成分吸収量を示した。


結球葉の窒素含量には施肥法の違いによる有意差は認められなかった。外葉の窒素含量をみても1992年度のLP40区でやや低い含量を示した以外,大きな差はなく,1株当たりの吸収量も対照区と同程度以上であった。また,表4に示したように施肥窒素利用率も対照区の54%に比べ,LP40の標準区61%,減肥区60%,ロング硝カルの標準区74%,減肥区78%と被覆肥料の施用により高くなった。

更に表5に示したように両肥料を用いた全量基肥施肥法は,追肥を併用した慣行施肥法に比べ跡地土壌のEC及び硝酸態窒素含量が低く抑えられることから,施肥の省力化・効率化が図られるだけでなく,環境保全的施肥法としての機能も発揮すると考えられる。

一方,ロング硝カル40は,収量性及び施肥窒素利用率からみるとLP40以上にハクサイにあった肥効を示すようであるが,試験に用いたのは芯腐れ,縁枯れ等の石灰欠乏症に対する軽減効果を調べることが主目的であった。ところが,両年とも欠乏症状は全く発生せず,軽減効果を見極めることは出来なかった。
しかし,葉中のカルシウム含量はロング硝カル施用により明らかに高くなり,また1株当たりの吸収量も他区に比べ多い傾向であったことから考えると,症状発生時には欠乏症軽減効果も期待できると思われる。
今回は被覆窒素肥料を利用した年内どりハクサイ栽培(プラグ育苗移植)の全量基肥施肥法の実用性について紹介した。この他,当研究所ではLP40のような比較的溶出期間の短い被覆肥料を利用すれば,年内どりキャベツ,ブロッコリ,春ハクサイ,スィートコーン等でも全量基肥施肥栽培が可能であることを確認している。
しかし,多くの野菜類では種々の作型(例えばキャベツでは収穫時期の違いにより,定植時期が9月上旬から11月上旬の長期にわたる)があるため,水稲で普及しているような全量基肥体系を作り上げるには,地温に対応した溶出パターンの速度論的な解析が必要である。そして,地温予測による溶出量の推定が可能になれば,多くの野菜類で被覆肥料を利用した環境にやさしく,かつ省力的な施肥法が実現するであろう。
農林水産省大臣官房調査課
河本 幸子
農林水産省は昭和27年から農産物及び農業生産資材等にかかわる需給,価格等の動向の分析及び見通し等を内容とする農業観測を作成し,公表しています。
「平成6年度農業観測」は,農林水産統計観測審議会の審議を経て,6月10日に公表されましたので,国内経済・農業の分析,農業資材のうち肥料の見通しを中心にその概要を紹介します。
なお,農業観測の作成に当たっては,作柄は平年作を前提としており,また,見通しは幅を持った表現としています。説明中に用いられている変動幅は表1のとおりで,いずれも前年度に対するもので,変動の幅が区分をまたがる場合は「わずかないしやや」等の表現を用いています。

5年度の我が国経済は,個人消費にはやや持ち直しの動きがみられ,住宅建設は高い水準で推移していますが,設備投資は減少が続き鉱工業生産も停滞傾向で推移しており,総じて低迷が続いています。また,雇用情勢をみると有効求人倍率は低下傾向にあり完全失業率も上昇傾向にあるなど,労働力需給の動きをみると,有効求人倍率は低下傾向にあり,完全失業率も上昇傾向にあるなど,製造業を中心に厳しさがみられます。
6年度の実質飲食費支出は,実質民間最終消費支出がわずかに増加すると見込まれていること,食料品消費者価格がほぼ前年度並みと見込まれることなどから,前年度並みないしわずかに増加すると見込まれます。
農業就業人口は,景気低迷が続き雇用情勢が厳しさを増すなかで大きく減少しており,5年度は5.35%の338万人となりました。
6年度は,農業外部への流失,高齢者のリタイアの増加等によりやや減少すると見込まれます。
5年度の農業生産資材の農家購入価格についてみると,農機具及び農薬等は上昇したものの,飼料,肥料,光熱動力は低下したことから,全体ではほぼ前年度並みとなりました。
6年度の農業資材の農家購入価格は,農機具がほぼ前年度並みと見込まれますが,農薬,飼料が原材料価格の低下や円高などによりわずかに下回ると見込まれることから,全体では前年度並みないしわずかに下回ると見込まれます(表2)。

5年度の農業生産は,記録的な異常気象により極めて大きな被害を受けたことから,前年度を10%程度下回ったとみられます。主要作物についてみると,米は26%程度,野菜は4%程度,果実は8%程度,それぞれ減少したとみられます。畜産物は,鶏卵,豚がわずかに増加し,ブロイラー,生乳がわずかに減少したことから,ほぼ前年度並みと見込まれます。
6年度は,米が未曽有の不作となった前年度より回復し,大幅に増加するほか,果実,野菜がわずかに増加することから,耕種生産はかなり大きく増加すると見込まれます。畜産物は,肉用牛が増加するものの,生乳が需給緩和を反映し減少するほか,豚,ブロイラー,鶏卵が収益性の低下等を反映し減少することから,全体ではわずかに減少すると見込まれます。この結果,農業生産総合では,かなりの程度増加すると見込まれます(図1)。

5年度の農産物の輸入数量は,円高等の影響により輸入価格が低下したなかで,7.4%増となりました。
6年度の農産物の輸入数量は,為替相場が円高で推移すれば,やや増加すると見込まれます。
主な農産物についてみると,小麦がわずかないしやや増加,とうもろこしがほぼ前年度並み,大豆がわずかに減少すると見込まれます。果実は,オレンジ果汁が増加しますが,生産オレンジは前年度並みと見込まれます。肉類は,牛肉がやや増加,豚肉がほぼ前年度並み,家きん肉が前年度並みないしわずかに増加すると見込まれます。
5年度の農産物生産者価格(概算)は,果実,畜産物等が引き続き低下したものの,異常気象に伴う不作により,野菜,米等が上昇したことなどから,農産物総合では7.2%上昇しました。
6年度は,野菜が異常気象に伴う不作により価格の高騰した前年度をかなりの程度下回り,果実はやや上回ると見込まれます。畜産物は鶏卵がやや上回り,肉畜がわずかに上回ることなどから,全体ではわずかいに上回ると見込まれます。この結果,農産物総合では前年度をわずかないしやや下回ると見込まれます。
5年度の農業生産額は,農業生産が記録的な異常気象により極めて大きな被害を受けたことから,10%程度減少し,農産物生産者価格が7.2%上昇したことから,3%程度減の12.3兆円程度になったとみられます。
6年度の農業生産額は,農業生産が不作であった前年度より増加し,農産物生産者価格がわずかないしやや下回るとみられることから,かなりの程度増加すると見込まれます。
化学肥料の国内需要量は,作付延べ面積が減少していること,緩効性肥料の普及及び側条施肥技術の導入などにより施肥効率が向上していることなどから,減少傾向で推移しています。しかし,4肥料年度(4年7月~5年6月)は,全国的に好天に恵まれたことにより,天候不順であった3肥料年度より追肥が増加したとみられることなどから1.1%増となりました。5肥料年度は,天候不順の影響により追肥の減少があったとみられることから7~2月間で1.2%の減少となっています(図2)。

なお,有機質肥料の供給量をみると消費者の有機農産物への志向の高まりと農家における自給有機質肥料生産の減少などを背景に大幅に増加し,50~4年の間で約5倍の増加となりました。4年も,前年に比べ4.9%増の499万3000トンとなりました。
6肥料年度の化学肥料の国内需要量はF 緩効性肥料などの高機能肥料の普及により単位面積当たり施肥量が減少傾向にあることなど減少要因はありますが,水稲作付面積が増加するとみられることなどから,ほぼ前年度並みと見込まれます。
化学肥料の全農購入価格は,原材料の国際市況,為替相場,海上運賃等の動向を反映して推移しています。4肥料年度は平均1.38%引き下げられ,5肥料年度は,原材料価格の低下,為替相場の5年2月以降の急激な円高,金利の低下等を背景に平均2.57%の引き下げとなりました。
肥料の農家購入価格は,このような化学肥料の全農購入価格の改定等を反映して4年6月以降弱含みで推移したが,4年9月まで前年水準を上回っていたため,4年度を通じてみると1.0%の上昇となりました。5年度は,5肥料年度の全農購入価格の引き下げなどを反映し,1.1%の低下となりました。
6年度の肥料の農家購入価格は,5肥料年度の化学肥料の全農購入価格が引き下げられたことなどから,原材料の輸入価格が5年度程度の水準で推移すれば,前年度並みないしわずかに下回ると見込まれます。
以上平成6年度の農業観測の概要を紹介しました。農業観測の冊子では,個別農産物ごとにも生産,価格の見通しに関する詳しい分析を行っています。また,農業生産資材についても,肥料だけでなく農機具,農薬等個別資材ごとに需要と価格の見通しに関する詳しい分析を行っています。さらに,本編をコンパクトにまとめたカラー印刷の概要版も公表していますので是非御一読頂き参考にしていただければ幸いです。